大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成4年(行ケ)95号 判決

大阪府大阪市北区中之島3丁目2番4号

原告

鐘淵化学工業株式会社

同代表者代表取締役

舘糾

同訴訟代理人弁護士

内田修

内田敏彦

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

高島章

同指定代理人

堀泰雄

田中靖紘

吉野日出夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が昭和63年審判第11485号事件について平成4年3月12日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和57年10月1日名称を「共重合体の製造方法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和57年特許願第173738号)をしたところ、昭和63年4月19日拒絶査定を受けたので、同年6月29日審判を請求し、昭和63年審判第11485号事件として審理され、平成2年10月16日出願公告(同年特許出願公告第46603号)されたが、特許異議の申立てがあり、平成4年3月12日異議の申立ては理由があるとの決定とともに「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、平成4年4月16日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

アルファメチルスチレン10~80重量%、アクリロニトリル5~50重量%の単量体を用いて、ジーt-ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレートを重合開始剤として重合温度80~120℃で懸濁重合または塊状重合により共重合することを特徴とする共重合体の製造方法

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  昭和45年特許出願公告第1825号公報(以下「引用例1」という。)には、アルファメチルスチレン50~80重量%、アクリロニトリル5~35重量%、あるいはさらにメタクリル酸メチル、スチレン、ビニルトルエンから選ばれた少なくとも一種の化合物45重量%以下の使用割合にある単量体を、以下の一般式(以下「一般式I」という。)

〈省略〉

(式中R、R’はC1~C16のアルキル基)

で表される構造を有する有機過酸化物の群から選ばれた少なくとも一種の化合物を触媒として重合温度90~120℃で共重合を行わせることを特徴とする共重合体の製造方法が記載され、さらに、この方法によれば、重合度も大きく、優れた衝撃強度と耐熱性を有し、かつ、成型材料として優れたアルファメチルスチレンーアクリロニトリル系共重合体を収率よく得ることができる(3欄20行ないし23行)こと、通常、塊状重合法または懸濁重合法に好適である(5欄42行ないし43行)ことが記載されている。

本願発明と引用例1記載の発明を対比すると、本願発明における重合開始剤は、引用例1記載の重合触媒と同義である(以下「重合開始剤」という。)から、両者は、懸濁重合または塊状重合によりアルファメチルスチレンーアクリロニトリル共重合体を製造する方法において、用いる単量体およびその使用量、かつ、重合温度において一致あるいは重複し、用いる重合開始剤において相違するものであるが、両者は、所望とする該共重合体を収得するという課題を、用いる重合開始剤の選択により解決するその技術的思想において共通する。

ところで、本願発明において用いられる重合開始剤についてみると、昭和56年特許出願公告第28923号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の一般式(以下「一般式Ⅱ」という。)

〈省略〉

(式中nは1または2)

をもつ過酸化物が化学反応を開始させるために極めて好適であり、特に、重合可能なCH2=C<基を含有する単量体(例えば、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステル)の70~110℃における遊離基重合及び共重合の開始に極めて好適である(3欄13行ないし31行)こと、用いる過酸化物はスチレンのような重合可能なビニル単量体の遊離基重合に特に好適であること、これらの化合物を用いる場合広範な性質を有するビニル重合体を得ることができる、たとえば、スチレンの重合に使用すると、同等条件の下で過酸化ベンゾイルを用いる場合よりもずっと高分子量のポリスチレンを短時間で得ることができる(4欄20行ないし37行)こと、さらに、開始剤を用いる重合または共重合は、懸濁重合、塊状重合により行うことができる(5欄20行ないし28行)ことが、それぞれ記載されており、この一般式においてn=2である過酸化物は、本願発明のジーt-ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレートに相当するに他ならないものであって、重合開始剤として公知の物質である。

しかも、引用例2の前記内容、すなわち、該過酸化物は、CH2=C<基を有する単量体、例えばアルファメチルスチレンと同種のスチレン、アクリロニトリル等を用いる共重合体の懸濁重合または塊状重合による重合の開始に好適であり、かつ、高分子量のものが短時間で得られる旨の作用効果を奏する記載からみて、ジーt-ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレートをアルファメチルスチレンーアクリロニトリル共重合体の重合開始剤として用いることは当業者ならば容易に想到することができたものである。

そして、これによる本願発明の作用効果が予測以上に優れたものとも認めることができない。

したがって、本願発明は、前記引用例1及び2記載の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の認定判断のうち、引用例1及び2の記載内容、本願発明と引用例1記載の発明との一致点及び相違点の認定は認める(但し、「両者は、所望とする該共重合体を収得するという課題を、用いる重合開始剤の選択により解決するその技術的思想において共通する。」との点は、否認する。)が、審決は、以下の点で相違点に対する判断を誤り、また本願発明の顕著な作用効果を看過し、もって本願発明の進歩性を誤って否定したもので、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1-相違点に対する判断の誤り

〈1〉 引用例1記載の発明の解釈について

(a) 本願発明は、引用例1記載の発明と同じくアルファメチルスチレンーアクリロニトリル共重合体を製造する方法に関するものである。

アルファメチルスチレンーアクリロニトリル共重合体の製造に関し、引用例1には次の記載がある。「アルファメチルスチレンーアクリロニトリル系共重合体の製造に関し特に注目すべき事は、前記触媒の一般式においてカルボニル基の隣接炭素原子に結合する水素原子の数が重要な事である。

すなわち、この水素原子の数がたとえばターシャリーブチルパーアセテートのごとく3個の場合では、得られる共重合体の重合度と、衝撃強度とが甚だしく低く、耐熱性も実質的に充分とは認められず、また、たとえばターシャリーブチルパーイソブチレートのごとき1個の場合では、得られる共重合体の重合度、衝撃強度及び収率が甚だしく低く、又耐熱性も実質的に充分とは認められない。これらの事実は、いずれもその重合温度の如何に拘わらず、確認しうるところである。

かかる事実に対し、本発明に用いる触媒、すなわち、前記水素原子の数が2個の場合のみは、本発明に於ける特定の重合温度を用いた場合には以下説明する如く得られる共重合体の重合度、衝撃強度、収率に関しても前記したごとき支障もなく、得られるアルファメチルスチレンーアクリロニトリル系共重合体に関し、前記したごとき好結果を与える。」(3欄32行ないし4欄8行)

しかるに、本願発明において用いる重合開始剤であるジーt-ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレートは、カルボニル基の隣接炭素原子に水素原子が1個しか結合していない。すわわち、この重合開始剤は、引用例1記載の発明でアルファメチルスチレンーアクリロニトリル系共重合体の製造において否定的に評価され排斥されたターシャリーブチルパーイソブチレートと同類である。

したがって、たとえ引用例2記載の発明において、ジーt-ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレートを重合開始剤として用いることが開示されているとしても、これは引用例1記載の発明が排斥している物質と同類のものである以上、これを引用例1記載の反応系に適用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(b) 本願発明の重合開始剤であるパーオキサイド化合物について、引用例1記載の発明が排斥している化合物ではないと断ずるのは、あまりにも形式的な判断である。引用例1において化学構造が一般式で示されているという類似性のあるパーオキサイド化合物の中のものでさえ、「カルボニル基の隣接炭素原子に結合する水素原子の数が重要」とされ、水素原子の数が2個の場合とそれ以外の場合では触媒としての反応性が顕著に異なるとされているのである。

仮に、引用例1記載の発明が本願発明のパーオキサイド化合物を明示的に排斥しているといえないとしても、該発明が極度に限定された構造の化合物のみを重合開始剤として良しとしていることからすれば、実質的には排斥しているとみるべきである。

〈2〉 本願発明の構成採用の容易性について

(a) 引用例2記載の発明は、本願発明及び引用例1記載の発明のようなアルファメチルスチレンーアクリロニトリル系共重合体の製造に関するものではなく、これとは化学的性質の異なる、スチレンの如き「重合可能なCH2=C<基を含む単量体の重合または共重合のような遊離基重合及び共重合の実施に関」する(引用例2、2欄4行ないし6行)発明である。したがって、ジーt-ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレートが後者の共重合に有効であるとしても、前者の共重合にも有効であるとの予測が立たないのが、この種の触媒化学における常識である。

ここでいう「化学的性質の異なる」とは、アルファメチルスチレンはスチレンのアルファ位の水素原子をメチル基で置換した化合物であるが、スチレンとは化学物質、特に重合可能性が顕著に異なるという意味である。

審決は、この点を見落とし、「該過酸化物は、CH2=C<基を有する単量体、例えば、α-メチルスチレンと同種のスチレン、アクリロニトリル等を用いる共重合体の懸濁重合又は塊状重合による重合の開始に好適であり、かつ、高分子量のものが短時間で得られる旨の作用効果を奏する記載」があると誤認している。

(b) 本願発明の技術的課題は、アルファメチルスチレンの重合可能性が低い点を如何にして克服するかということにある。被告は、スチレンがアルファメチルスチレンに最も類似した単量体の1つであることは、当業者の技術常識であるとするが、本願発明の技術的課題との関係においては、両者は、全く異なるというべきである。

また、被告は、スチレンとアルファメチルスチレンを同じ開始剤で重合できることも周知であると主張するが、これは誤りであり、このことは、引用例1記載の比較例及び本願明細書記載の比較例には、スチレンの重合には好適に用い得るが、アルファメチルスチレンの重合には適さない開始剤として、過酸化ベンゾイル、ターシャリーブチルパーイソブチレート等を始め六種類もの開始剤が例示されていることからも明らかである。

(c) 引用例2には次のとおり記載されている。

「特に重合可能なCH2=C<基を含有する単量体(例えばスチレン…)」(3欄24行ないし25行)「本発明で用いる過酸化物はスチレンのような重合可能なビニル単量体の遊離基重合に特に好適である。」(4欄20行ないし23行)

これらの記載によれば、引用例2記載の発明において過酸化物が好適とされる反応は、ビニル単量体一般ではなくて、スチレンと同程度に重合可能なビニル単量体の重合反応とされていることが明らかである。

しかるに、アルファメチルスチレンは、スチレンと同程度に重合可能なビニル単量体とはいえない。

このことは、甲第9号証(JOHN C.BEVINGTON著「ラジカル重合」1968年6月20日株式会社東京化学同人発行)には、アルファメチルスチレンについて、「酸素と容易に共重合するモノマーには通常ラジカル機構によって単独重合しにくいようなモノマー、たとえばα-およびβ-メチルスチレンがある。」と記載されていること、並びに甲第10号証(昭和50年特許出願公告第40160号公報)記載の発明は、アルファメチルスチレンを重合抑制剤として使用していることに照らし、疑いの余地のないことである。

したがって、このような技術常識を身につけている当業者は、引用例2記載の過酸化物が「スチレンのような重合可能なビニル単量体の遊離基重合に特に好適である」との記載に接しても、この過酸化物をアルファメチルスチレンーアクリロニトリルの共重合体の重合開始剤としてもどうせうまくいく筈がないと考えるに違いないのである。

(2)  取消事由2-作用効果の相違の看過

〈1〉 引用例1記載の実施例1の実験番号5(以下「実施例1の5」という。なお、実施例1の実験番号4を「実施例1の4」という。)と本願明細書記載の実施例4を対比すると、両者は、単量体組成において同一であるが、作用効果において次のような差異があり、いずれも本願発明の方が優れている。

(a) 前者は20時間の重合時間を要しているのに対し、後者は半分以下の8時間ですんでいる。

(b) 前者の重合転化率は97%であるのに対し、後者は99.3%に達している。

(c) 前者の熱歪温度は115℃であるのに対し、後者は145℃と30°も高く、後者は耐熱性に優れている。

したがって、審決が本願発明の作用効果を予測以上に優れたものと認めることができないとしたことは、明らかに誤りである。

〈2〉(a) 被告は、本願発明の作用効果を、単に本願明細書記載の実施例4と比較例3の各重合転化率の数値差で評価しているが、これは、本願発明の作用効果を判断するにあたって根本的な間違いをしていることを示す何よりの証左である。

重合開始剤として、ヘキサハイドロテレフタレートを用いた本願発明と過酸化ベンゾイルを用いた比較例との対比であっても、その条件次第で重合転化率は大きく異なるものであるから、この結果から本願発明の効果を云々することは正しいことではない。

本願発明の作用効果を評価するにあたり重要な点は、共重合反応性に劣っていることが周知のアルファメチルスチレンをアクリロニトリルと共重合させるにあたって、「高転化率、高重合度の共重合体を如何に短時間で得ることができるか」という技術的課題についての達成の度合いである。

この点から本願発明の作用効果をみると、本願発明が優れていることは歴然としている。

すなわち、甲第6号証(池田朔次外2名編「高分子生成反応」昭和44年10月25日株式会社地人書館発行)には、重合温度が適正値である時に平均分子量は極大値をとり、重合温度が適正値より低すぎても高すぎても、その平均分子量は低下するという関係があると記載されており、重合開始剤についても、同様のことがいえることは、技術常識である。したがって、重合開始剤の種類の異なる本願発明と引用例1記載の発明との比較を、重合開始剤の量及び温度の異なるそれぞれの実施例(好適な例)を対比して行っても、何ら論難されるべき理由はない。

そして、重合転化率において、99.3%(本願発明記載の実施例4)と97%(引用例1記載の実施例1の5)の相違は、すこぶる重大である。これは、未反応単量体の残存量が、それぞれ0.7%と3%であることを意味するからであって、残存モノマーの数値に2.3%も差があれば、熱変形温度(熱歪温度)の向上に重大な影響があることは明らかである。

また、引用例2記載の実施例3に示されている本願発明と同じパーオキサイド化合物と過酸化ベンゾイルによる効果、及び本願明細書に記載されている本願発明のパーオキサイド化合物と過酸化ベンゾイルによる効果(本願明細書記載の実施例1、3、4と比較例1、2、3)の差をみると、過酸化ベンゾイルから本願発明のパーオキサイド化合物に変えることによる重合転化率の向上の割合は、アルファメチルスチレンーアクリロニトリル系共重合体の製造に関する本願発明において極めて顕著であり、スチレンの重合に関する引用例2の記載から予測可能な範囲をはるかに超えていることが理解できるのである。

(b) 被告は、重合時間に関し、引用例2には重合開始剤として本願発明のパーオキサイド化合物を用いれば過酸化ベンゾイルよりスチレンの重合速度が速いことが記載されているから、アルファメチルスチレンの共重合においても本願発明のパーオキサイド化合物による重合速度が速いであろうことは、当業者が予測し得ると主張している。

しかし、これは「スチレンがアルファメチルスチレンに最も類似したモノマーの1つである」という誤解と、「スチレンとアルファメチルスチレンを同じ触媒で重合できることも周知である」という誤解とを前提とする主張であって、合理的根拠はない。

また、引用例2において具体的に示されている本願発明の使用するパーオキサイド化合物と過酸化ベンゾイルの重合開始剤としての効果の対比(引用例2記載の実施例3の実験結果、スチレンの単独重合に関するもの)をみると、両者間に重合時間の差異は全くみられない。

さらに、本願発明の重合時間の短縮について、被告は、本願発明で用いる重合開始剤の量が多いこと、本願発明で用いるパーオキサイド化合物が過酸化ベンゾイルよりスチレンの重合速度が速いことを理由に否定する。

しかしながら、本願発明は、その重合開始剤の使用量が多くても転化率が高くかつ強度の優れた高重合度の共重合体が得られることに、重要な技術的意義がある。一般に、重合開始剤の量が多くなると、重合度(したがって強度)が低下することが知られているのに、本願発明のように、重合開始剤の使用量が引用例1記載の実施例1の5の5倍も多いにもかかわらず、高い重合度(したがって優れた強度)を有する共重合体が得られるということは、予想外の効果である。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認める、同4は争う。審決の認定判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

2(1)  取消事由1(相違点に対する判断の誤り)について

〈1〉 引用例1記載の発明の解釈について

アルファメチルスチレンーアクリロニトリル系共重合体の製造に関し、カルボニル基の隣接炭素原子に結合する水素原子の数が重要なのは、引用例1記載の一般式Ⅰで示されるパーオキサイド化合物の場合のことであって、本願発明の化合物は、上記一般式Ⅰで示されるパーオキサイド化合物とは構造が異なるから、引用例1記載の発明が排斥している化合物ではない。

〈2〉 本願発明の構成の容易性について

(a) スチレンとアルファメチルスチレンの重合可能性が同じでないことは当然のことである。

しかしながら、スチレンがアルファメチルスチレンに最も類似したモノマーの1つであることは、当業者の技術常識であり、スチレンとアルファメチルスチレンを同じ開始剤で重合できることも周知のことである。

したがって、審決が「アルファメチルスチレンと同種のスチレン」と記載したことに格別の誤りはないし、スチレンの(共)重合開始剤として知られたパーオキサイド化合物をアルファメチルスチレンの(共)重合開始剤として用いてみようとすることは、当業者が容易に想到し得ることであって、技術的な転用の予測性があるといえる。

(b) 被告は、アルファメチルスチレンに好適な重合開始剤を見出そうとするとき、当業者であれば、当然スチレンの重合開始剤として優れたものを考慮し、実験してみるであろうということを主張しているのである。

アルファメチルスチレンがスチレンに比べて重合性が低いことは、原告の主張するとおりとしても、当業者であれば、それを考慮にいれて実験しようとするのであって、当業者が容易に想到し得ることに変わりはない。

(c) 引用例1記載の実施例1に、比較例として5種類の重合開始剤が記載されているが、これらはいずれもスチレンの重合開始剤として公知のものである。

スチレンの重合開始剤として知られたものをアルファメチルスチレンの重合開始剤として用いて比較しているということは、スチレンの重合開始剤をアルファメチルスチレンの重合開始剤として用いてみようとする当業者の一般常識を示しているといえるのであり、このことは、スチレンの重合に用いる開始剤をアルファメチルスチレンの共重合に用いてみようとする動機付けが不可能ないし非常に困難であるとする原告の主張が妥当でないことを示している。

(2)  取消事由2(作用効果の相違の看過)について

〈1〉(a) 引用例1記載の実施例1の5と本願明細書記載の実施例4を比較すると、原告が主張するとおりの重合時間、重合転化率、熱歪温度に関する記載があることは認めるが、両者は、重合開始剤の量や重合温度等の重合条件が異なり、同じ条件で比較しているわけではないから、原告の主張する作用効果が重合開始剤としてのパーオキサイド化合物の違いによるものと断定することはできない。

(b) 同一の条件下における引用例1記載の発明と本願発明の効果を比較するために、それぞれの明細書に記載された、それぞれの実施例と比較例で過酸化ベンゾイルを用いた場合を比較してみると、次のような差異があり、本願発明より引用例1記載の発明の方が改良効果が大きいことが理解される。

イ.重合転化率について、本願発明の場合は4%程度向上する(実施例4の99.3%と比較例3の95.6%から計算)が、引用例1記載の発明の場合は19%(実施例1の5の97%と実施例1の4の78%から計算)も向上している。

ロ.熱歪温度について、本願発明の場合は測定されていないが、引用例1記載の発明の場合は8℃の向上がみられる。

(c) 引用例2記載の発明の詳細な説明には、本願発明の重合開始剤であるパーオキサイド化合物を用いた方が、過酸化ベンゾイルを用いるよりスチレンの重合速度が速いことが記載されており、アルファメチルスチレンの共重合においても本願発明のパーオキサイド化合物を用いた方が重合速度が速いであろうことは、当業者が容易に予想し得たことである。

そして、本願発明は引用例1記載の発明よりも5倍(本願発明は0.75部、引用例1記載の実施例は0.15部)もの重合開始剤を用いていることを考えれば、重合時間について、20時間対8時間という差があることは本願発明の作用効果が優れていることを示しているということはできない。

また、本願発明の用いるパーオキサイド化合物を使用すると、重合時間が短いことが引用例2記載の発明から予想されることは、審決記載のとおりである。実施例に則してみても、引用例2記載の実施例3では、重合時間6時間で重合転化率が100%となっているのであるから、本願発明の8時間という時間は、アルファメチルスチレンの重合速度が遅いことを考慮しても、予測できない効果であるとはいえない。

〈2〉 原告は、重合開始剤については、それぞれ固有の最適条件があり、異なる重合開始剤を同じ温度、使用量で比較するのは必ずしも意味があるとはいえないから、それぞれの実施例(好適な例)で比較するのは、論難されるべきことではないとするところ、この主張は、一般論として認めることができる。

しかしながら、引用例1記載の実施例1の4と本願明細書記載の比較例3もともに過酸化ベンゾイルを用いているのであるが、両者における重合転化率や熱歪温度は全く異なっており、重合開始剤以外の要件が異なっているといわざるを得ない。このような要件を排除して重合開始剤としての作用効果をみるために、それぞれの発明をそれぞれの比較例に記載された過酸化ベンゾイルを用いた場合を基準として作用効果を比較してみるという被告の主張する方法も合理性があるというべきである。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する(書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。)。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)、同3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

また、審決の認定判断のうち、引用例1及び2の記載内容、本願発明と引用例1記載の発明との一致点及び相違点の認定(但し、「両者は、所望とする該共重合体を収得するという課題を、用いる重合開始剤の選択により解決するその技術的思想において共通するものである。」との点を除く。)も、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決の取消事由について検討する。

1  甲第4号証(本願発明の特許出願公告公報)によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成、作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

(1)  本願発明は、アルファメチルスチレンとアクリロニトリルの単量体を用いて、特殊な過酸化物系重合開始剤により共重合することを特徴とする共重合体の製造方法に関する。

アルファメチルスチレンにアクリロニトリルさらにこれらと共重合し得るスチレン、メタアクリル酸メチル、ビニルトルエン、t-ブチルスチレンから選ばれた1種または2種以上の化合物を共重合させて実用性において充分な程度に耐熱性の優れた共重合体を得るには、アルファメチルスチレンを上記使用全単量体のうち、少なくとも10重量%以上、好ましくは20重量%以上使用する必要がある。

アルファメチルスチレンを上記の如く大量使用して耐熱性の優れた共重合体を懸濁重合または塊状重合により得るには、従来、ターシャリーブチルパーベンゾエード、ジターシャリーブチルベンゾエード、ジターシャリーブチルパーオキサイド等の有機過酸化物を重合開始剤として用いる方法があったが、これら開始剤を用いる方法においては、重合温度の如何に拘らず、はなはだ大量に用いる必要があり、このため得られる共重合体は、その重合度が極度に低く、成形材料として有用性に乏しいものであった。さらに、この重合度をあげるために重合開始剤を少なくすると、いわゆるdead end重合となり、工業的に求められる高転化率は得られないか、高転化率を得ようとすると極度に長い重合時間を要し、著しく生産性が悪かった。また、過酸化ベンゾイルの如き有機過酸化物を使用すると、これに適する重合温度を用いても、工業的に利用し得る高転化率の共重合体は全く得られなかった。

本願発明は、上記の欠点を解消し、懸濁重合または塊状重合により、短時間で高転化率の透明性、耐熱性、強度に優れたアルファメチルスチレンーアクリロニトリル系共重合体を製造することを目的とするものである(1欄9行ないし3欄5行)。

(2)  本願発明は、上記目的を達成するため特許請求の範囲(1欄2行ないし7行)記載の構成を採用したものであり、これにより短い重合時間で高転化率の透明性、耐熱性、強度に優れた共重合体を得る製造方法を提供するものである。

2(1)  取消事由1(相違点に対する判断の誤り)について

〈1〉 引用例1記載の発明の解釈について

引用例1には、アルファメチルスチレンーアクリロニトリル系共重合体の製造方法について、アルファメチルスチレン50~80重量%、アクリロニトリル5~35重量%、あるいはさらにメタアクリル酸メチル、スチレン、ビニルトルエンから選ばれた少なくとも一種の化合物45重量%以下の使用割合にある単量体を、前記一般式Ⅰで表される構造を有する有機過酸化物の群から選ばれた少なくとも一種の化合物を触媒として重合温度90~120℃で共重合を行わせることを特徴とする共重合体の製造方法が記載され、さらに、この方法によれば、重合度も大きく、優れた衝撃強度と耐熱性を有し、かつ、成形材料として優れたアルファメチルスチレン-アクリロニトリル系共重合体を収率よく得ることができ、通常、懸濁重合または塊状重合に好適であることが記載されていることは、当事者間に争いがない。

そして、甲第2号証(昭和45年特許出願公告第1825号公報)によれば、引用例1記載の発明の詳細な説明の中に、アルファメチルスチレン-アクリロニトリル系共重合体の製造における重合開始剤について、原告主張のとおり、「特に注目すべき事は、前記触媒の一般式においてカルボニル基の隣接炭素原子に結合する水素原子の数が重要な事である。すなわち、この水素原子の数がたとえばターヤリーブチルパーアセテートのごとく3個の場合では、得られる共重合体の重合度と、衝撃強度とが甚だしく低く、耐熱性も実質的に充分とは認められず、また、たとえばターシャリーブチルパーイソブチレートのごとき1個の場合で得られる共重合体の重合度、衝撃強度及び収率が甚だしく低く、又耐熱性も実質的に充分とは認められない。…かかる事実に対し、本発明に用いる触媒、すなわち、前記水素原子の数が2個の場合のみは、本発明に於ける特定の重合温度を用いた場合には以下説明する如く得られる共重合体の重合度、衝撃強度、収率に関しても前記したごとき支障もなく、得られるアルファメチルスチレン-アクリロニトリル系共重合体に関し、前記したごとき好結果を与える。」(2頁3欄33行ないし4欄8行)と記載されていることが認められる。

原告は、引用例1記載の一般式Ⅰで示される類似構造の触媒の中でさえ、上記のように極度に限定された構造の化合物のみを重合開始剤として良しとしていることからすると、引用例1記載の発明は、重合開始剤として、本願発明のパーオキサイド化合物を明示的にも実質的にも排斥しているとみるべきであると主張する。

しかしながら、引用例1記載の一般式Ⅰによる重合開始剤と本願発明で示す重合開始剤とは、その構造が明らかに異なっており、引用例1は、同記載の一般式Ⅰで示される重合開始剤についてカルボニル基の隣接炭素原子に結合する水素原子の数が重要であることを述べているにすぎず、本願発明の重合開始剤について何ら言及するものではないから、引用例1記載の発明が本願発明のパーオキサイド化合物の使用を明示的にはもとより、実質的にも排斥しているということはできない。

そして、引用例2には、本願発明で使用するジ-t-ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレートが、共重合可能なCH2=C<基を有する単量体(例えば、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル)の重合開始剤として使用し得ることが明示されていることは、当事者間に争いがないところである。

〈2〉 本願発明の構成の容易性について

本願発明は、原料単量体としてアルファメチルスチレンとアクリロニトリルを用い、重合開始剤を使って、共重合体を製造する方法に関するものであり、その反応自体は引用例1記載の発明に記載された反応と同一であるから、本願発明の構成の容易性は、引用例1記載の反応系に引用例2記載の重合開始剤を適用することが容易か否かにより定まるものである。

原告は、引用例2記載の「特に重合可能なCH2=C<基を有する単量体(例えばスチレン…)」、「本願発明で用いる過酸化物はスチレンのような重合可能なビニル単量体の遊離基重合に特に好適である」の記載を取り上げ、アルファメチルスチレンは、スチレンと同程度に重合可能なビニル単量体とはいえないから、引用例2記載の重合開始剤を引用例1記載の反応系に適用することは容易ではないと主張する。

甲第3号証(昭和56年特許出願公告第28923号公報)によれば、引用例2に上記記載がなされている(3欄24行ないし25行、4欄20行ないし23行)ことが認められるが、さらに、同号証によれば、引用例2記載の発明の特許請求の範囲として、「エチレン性不飽和単量体の重合もしくは共重合方法」(1欄35行ないし36行)と記載され、その実施の態様として、前記一般式Ⅱの「nが2である特許請求の範囲記載の化合物が開始剤である、共重合可能なCH2=C<基を含む単量体を重合もしくは共重合させるための特許請求の範囲記載の方法」(11欄34行ないし38行)と記載されていることが認められ、この記載からすると、引用例2記載の発明は、一種の単量体のみが重合する「単独重合法」に限定するものでも、「スチレンと同程度に重合可能な単量体」を原料とする方法に限定するものでもないものと判断される。

そして、アルファメチルスチレンとスチレンは、その化学構造から明らかなように、共役モノマーである点で共通している。もっとも、甲第5号証(村橋俊介外2名編「合成高分子Ⅱ」昭和50年3月30日株式会社朝倉書店発行)及び弁論の全趣旨によれば、アルファメチルスチレンは、スチレンのアルファ位の水素原子がメチル基で置換されているもので、このため単独重合によって高重合体を得難いことが認められるから、このような意味では、原告が主張するように両者は非類似な化合物であるということができる。

しかしながら、甲第7号証(高分子機械材料委員会編「ABS樹脂」昭和45年8月31日丸善株式会社発行)によれば、アルファメチルスチレンは、重合開始剤のもとでは、その単独重合により高重合体を得ることはできないが、他の共重合可能な単量体を選択して共重合させることにより、ある程度の高重合体を得ることができるとされていることが認められ、引用例1に記載され、本願発明と同一の反応を示すアルファメチルスチレンとアクリロニトリルを用いる共重合反応は、まさにアルファメチルスチレンがこのような反応性を有することを示している。

すなわち、アルファメチルスチレンは、スチレンと同様に、共重合の原料として使用し得るものであり、このような意味においてアルファメチルスチレンとスチレンは類似するということができる。

アルファメチルスチレンのこのような反応性を考慮すれば、引用例2は、重合開始剤として本願発明と同一のジ-t-ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレートを使用して共重合可能なCH2=C<基を有する単量体を共重合する方法を示し、かつその単量体には、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルを示しているのであるから、アルファメチルスチレンが明示的に記載されていない(当事者間に争いない事実である。)としても、当業者であればアルファメチルスチレンもまた引用例2記載の発明における共重合可能なCH2=C<基を有する単量体であると理解できたというべきである。

したがって、CH2=C<基を有する単量体の共重合反応系であるアルファメチルスチレンとアクリロニトリルを用いる共重合の重合開始剤として、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレートを使用し共重合させることは、当業者が容易に想到し得たことというべきである。

しかも、前記認定事実によれば、本願発明は、単量体として70重量%までのスチレンを使用する態様をも包含するものであり、この点からしても、このような反応系に引用例2記載の重合開始剤を使用することは、当業者が容易に想到し得たことということができる。

したがって、相違点について、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレートをアルファメチルスチレン-アクリロニトリル共重合体の重合開始剤として用いることは当業者ならば容易に想到することができたとした審決の判断に誤りはない。

(2)  取消事由2(作用効果の相違の看過)について

〈1〉 本願明細書には、本願発明の奏する作用効果について、短い重合時間で高転化率の透明性、耐熱性、強度に優れた共重合体を製造し得る旨記載されていることは、前記1(2)認定のとおりであり、また、前掲甲第2、第4号証によれば、本願明細書記載の実施例4では、8時間の重合で熱歪温度145℃の共重合体を99.3%の重合転化率で得ているのに対し、引用例1記載の実施例1の5では、20時間の重合で熱歪温度115℃の共重合体を97%の重合転化率で得たと記載されていることが認められるから重合時間、熱歪温度、重合転化率のいずれを比較しても前者の方が良好な数値を示している。

しかしながら、本願発明の作用効果が引用例1記載の発明より優れている、といえるとしても、引用例2記載の発明における重合開始剤をアルファメチルスチレンとアクリロニトリルを用いる共重合反応に適用する構成を採用することが当業者に容易に想到し得たことは前記取消事由1において判断したとおりであるから、本願発明の作用効果の予測困難性を検討するに当たっては、引用例1及び2の記載事項からそのように構成すれば上記本願発明の作用効果を当然予測できたか否かを検討すべきである。

そこで、引用例2の記載事項についてみると、前掲甲第3号証によれば、引用例2には、「今回、本発明者らは一般式をもつ過酸化物が化学反応を開始させるために極めて好適であり、特に重合可能なCH2=C<基を含有する単量体(例えばスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステル)の70~110℃、好ましくは70~100℃の温度範囲における遊離基重合及び共重合、並びに70~80℃の温度範囲における不飽和ポリエステル樹脂の共重合の開始に極めて好適であることを発見した。」(3欄13行ないし32行)との記載がなされていることが認められ、これによれば、引用例2記載の発明で使用する一般式Ⅱの過酸化物が、重合可能なCH2=C<基を含有する単量体の共重合に極めて好適であることが示されている。

また同号証には、「本発明で用いる過酸化物はスチレンのような重合可能なビニル単量体の遊離基重合に好適である。n=2の化合物は固体であるという利点を持っている。さらに、これらの化合物を用いる場合広範な性質を有するビニル重量体を得ることができる。例えば、特に今まで知られていなかった過酸化物ペルオキシヘキサヒドロテレフタル酸ジ第三ブチル及びペルオキシヘキサヒドロイソフタル酸ジ第三ブチルを開始剤としてスチレンの重合に使用すると、同等条件の下で過酸化ベンゾイルを用いる場合よりもずっと高分子量のポリスチレンが得られる。所定の分子量のポリスチレンが所望の場合には、開始剤としてのペルオキシヘキサヒドロテレフタル酸ジ第三ブチルまたはペルオキシヘキサヒドロイソフタル酸ジ第三ブチルを用いれば過酸化ベンゾイルを用いる場合よりも短時間でかかるポリスチレンを得ることができ、経済的に有利である。」(4欄20行ないし37行)との記載がなされており、さらに、スチレンを単独重合してポリスチレンを製造する実施例3には、重合開始剤としてペルオキシヘキサヒドロテレフタル酸ジ第三ブチルすなわちジ-t-ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレートを用い、単量体に対する重合開始剤使用量0.13重量%で8時間、及び0.26重量%で6時間反応させると、転化率及び平均分子量が、それぞれ99%、330000、及び100%、183000である(4頁ないし5頁)ことが示されている。

該実施例に例示されたものは、スチレンの単独重合に関するものであるが、引用例2記載の発明は、スチレンの単独重合に限られるものではないことは、取消事由1に対する判断で述べたとおりであり、すなわち、引用例2は、特に重合可能なCH2=C<基を含有する単量体の遊離基重合及び共重合の開始に極めて好適である、スチレンのような重合可能なビニル単量体の遊離基重合に特に好適であると指摘したうえで、その具体例としてスチレンの単独重合の実施例を示すものであるから、CH2=C<基を有する単量体の重合の反応系の種類により差異はあるとしても、引用例2は、これらの反応で高分子量の重合体が極少量の重合開始剤の使用により短時間に高転化率で得られることを示唆するものである。

したがって、引用例2記載の重合開始剤を、重合可能なCH2=C<基を含有する単量体のアルファメチルスチレンとアクリロニトリルを用いる共重合反応系に適用した場合も、高分子量の重合体を極少量の重合開始剤の使用により短時間に高転化率で得られるであろうこと、また、高分子量の重合体を高転化率で得る結果、耐熱性、強度等の物性の優れた重合体が得られるであろうことは、当業者が容易に予想し得たことであると判断される。

〈2〉 そして、他に本願発明が予想外の作用効果を奏するとする原告の主張を認めるに足りる証拠もない。

したがって、本願発明の作用効果は当業者が引用例1及び2記載の発明から予測し得た範囲のものにすぎず、予測以上に優れたものとすることができない、とした審決の判断に誤りはない。

3  以上のとおり、原告の審決の取消事由の主張は、いずれも理由がなく、審決に原告主張の違法はない。

第3  よって、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 田中信義)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例